top of page
検索
  • 楠見友輔(立教大学文学部)

4.新型コロナウイルスと日本の学校(学校の再開)

更新日:2020年12月5日

 本記事では、新型コロナウイルスの発生に対する令和2年度の日本の学校の対応について、学校再開までの期間の出来事を振り返ります。

 前記事では、3月24日時点では文部科学省は新年度から学校の再開を目指していたことを示しましたが、下の図1に示されるように、4月の上旬から新型コロナウイルスの国内における第1波が生じたことで、多くの学校で臨時休校期間が延長されました。



図1:感染の第1波と第2波



4月6日

【新年度の始まり】


 2020年の春休みは多くの地域で4月5日(日)までであり、通常であれば4月6日(月)からの新学期が始まる予定でした。しかし、東京都、大阪府、神奈川県等の感染が急増している地域では、4月6日時点で臨時休業の延長が決定されました。例えば、東京都では教育委員会が島しょ部を含めて全学校の臨時休業を5月6日まで延長しました。他の都道府県でも、全部または一部の学校の再開の延期が決定されました。新学期を予定通り開始することになっていた学校は4月6日時点では全国の約6割(推計値)でした


4月7日

【緊急事態宣言】


 4月7日には、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都道府県で緊急事態宣言が出されました。緊急事態措置を実施すべき期間は令和2年4月7日から5月6日までの1か月間とされ、感染拡大の状況等から措置を実施する必要がなくなった場合には、緊急事態宣言を解除するとしました。


※なお、本緊急態宣言は「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」とも呼ばれます。本緊急事態宣言は、令和2年3月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)」(平成24年5月交付)の適用対象に新型コロナウイルスを含めることによって発出されました。政府対策本部長(内閣総理大臣)が①期間、②区域、③事案の概要を特定して宣言し、都道府県知事はより具体的な期間と区域を定め、不要不急の外出自粛や施設の使用制限の要請といった緊急事態措置を講ずることが可能となります


4月10日

【新型コロナウイルス感染症に対応した小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における教育活動の再開等に関するQ&A】


 7都道府県で緊急事態宣言が出されたことや、地域の感染拡大の状況を踏まえ、多くの地域が学校の臨時休業を延長することを決定しました。4月10日の文部科学省の調査結果の集計によると、新学期に教育活動を再開した学校は、公立で36%、国立で30%、私立で49%に減少しました


4月15日

【臨時休業の延長】


 文部科学省は、学校の再開に向けて、Ⅰ. 学校再開について、Ⅱ. 臨時休業の実施について、の2つの項目について予想される質問に対する回答を行っています。4月17日、23日、5月13日に更新され、5月21日に【新型コロナウイルス感染症に対応した小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における教育活動の実施等に関するQ&A】に、にタイトルが更新されており、8月20日には【教育活動の実施等に関するQ&A】が示されています。


4月16日

【緊急事態宣言の対象範囲が全国に拡大】


 4月16日には、緊急事態宣言の対象範囲が全国となりました。更に、特に感染が拡大している都道府県は特定警戒都道府県に指定されました。全国と特定警戒都道府県における緊急事態宣言の発出と解除の時期は図2に示した通りです。5月4日には緊急事態措置を実施すべき期間が5月31日まで延長されました。その後、5月14日から緊急事態宣言を実施すべき地域が減少されていきました




図2:緊急事態宣言の対象範囲


4月21日

【新型コロナウイルス感染症対策のために小学校、中学校、高等学校等において臨時休業を行う場合の学習の保障等について(通知)】


 文部科学省は臨時休業中の子どもの学習保障の指針として「新型コロナウイルス感染症対策のために小学校、中学校、高等学校等において臨時休業を行う場合の学習の保障等について(通知)」を通知しました。本通知は「学習保障通知」とも呼ばれます。第一に、臨時休業中も義務教育の果たすべき役割が変わらないこと、また高等学校等においても義務教育諸学校と同様に臨時休業中も子どもの教育権利を保障するように努める必要があることが示されています。


 第二に、臨時休業中の子どもの学習保障について(1)すべての地域において最低限取り組むべき事項と、(2)地域の状況に応じて取り組むべき事項が示されています。


(1)については、

①学習指導について:教科書等の給与とICTや電話を活用した学習相談をしながら、子どもに適切な家庭学習を課すこととされています。その際、児童生徒の学習状況を電子メール、電話、郵便等で随時把握すること、ICTを最大限活用することが示されています。

②心のケアについて:児童生徒や保護者と連絡を密にし、休校期間中に定期的に児童生徒の心身の健康状態を把握する(概ね2週間に1回程度)必要があることが示されています。 

③その他:対面での指導の必要性が高い場面が生じた場合には、感染症対策を徹底した上で、短期間の最小限度の範囲で行うことも考えられると書かれています。


(2)については、学校や地域の状況を踏まえ、分散登校等による登校日の設定、家庭訪問の実施などの対応を行うことと書かれています。


 第三に、臨時休業中の教職員の勤務について書かれており、公教育の果たすべき役割を第一に考慮し、家庭学習を家庭任せにせずに必要な業務を確実に継続することを前提としたうえで、在宅勤務、時差出勤を適切に推進することが書かれています。また、ICTを用いたテレワークの実施も推奨されています。


※文部科学省は「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた学習指導等に関する状況」の調査を行い、4月16日と6月23日10の2時点での調査結果を公表しています。後者の調査では、「学校が課した家庭における学習の内容」「家庭における学習の状況把握と支援の方法」「各設置者が臨時休業期間中の学習指導に関し課題であったと感じている事項」「学校再開後に行っている又は行う予定の工夫」等の集計結果が示されています。本調査に関しては、次回以降の記事で考察をしたいと思います。


4月22日

【臨時休校の実施状況】


 文部科学省が4月22日に集計した調査によると、4月16日の全国を対象とした緊急事態宣言の発出により、各地域において全面的な臨時休業措置が取られ、4月22日時点で全国の91%の学校が臨時休業を実施していたことが示されています。

 ただし、鳥取県と岩手県では、県内の感染状況から殆どの学校で臨時休業はなされていませんでした。また、奈良県、岡山県、鹿児島県、沖縄県、静岡県では一部の学校が継続されていました。しかし、その他の都道府県では全ての公立の小、中、高等学校、特別支援学校が休業とされています11。更に、本集計結果には、臨時休業終了予定日が調査されており、公立学校のうち16%が5月11日から24日までに再開を、80%が5月25日から31日までに再開を予定していたことが示されています。


5月1日~

【新型コロナウイルス感染症対策としての学校臨時休業に係る学校運営上の工夫について】


  3月24日に出されたガイドラインを補足するものとして、5月1日に「新型コロナウイルス感染症対策としての学校の臨時休業に係る学校運営上の工夫について」12が出されました。

 5月1日の「新型コロナウイルス感染症対策の現状を踏まえた学校教育活動に関する提言(懇親会提言)」では、「感染リスクをゼロにするという前提に立つ限り、学校に子供が通うことは困難であり、このような状態が長期間続けば、子供の学びの保障や心身の健康などに関して深刻な問題が生じることとなる」「社会全体が、長期間にわたりこの新たなウイルスとともに生きていかなければならない」「地域や生活圏によって感染の状況は異なることから、一律ではなく地域の状況を踏まえて、段階的に学校教育活動を開始していくことも可能である」等の認識が示されました。本通知は懇親会提言を受けた学校再開に向けた文部科学省の方向性が示されています。「学校の臨時休業を続けざるを得ない地域においても、ICTを最大限活用しながら、感染症対策を徹底した上で、分散登校(児童生徒を複数のグループに分けた上でそれぞれが限られた時間、日において登校する方法)を行う日を設けることにより、段階的に学校教育活動を再開し、全ての児童生徒が学校において教育を受けられるようにしていくことが重要である。」として、ICTの利用、分散登校等の考えが示されています。

 ここでは、リスクをゼロにするのではなく可能な限りリスクを抑え、ウイルスと共存しながら学校再開を目指すという方向性が示されているといえます。この後、学校の再開に向けたいくつかのマニュアルが示されます。5月15日には、「学校教育活動再開時における登下校時の安全確保について」13が、5月22日には「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」が、5月27日には、「新型コロナウイルス感染症に対応した小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における教育活動の再開後の児童生徒に対する生徒指導上の留意事項について(通知)」14が示されました。なお、衛生管理マニュアルは6月16日、8月6日、9月3日に改訂されています15。衛生管理マニュアルの内容については本研究会の「2.新型コロナウイルスの感染経路」で紹介しています。


※「学校教育活動再開時における登下校時の安全確保について」では、登下校時の見守り活動の実施のお願いや、登下校時間の分散などによって感染対策を行う旨が書かれています。

※「衛生管理マニュアル」には、資料の第1章で新型コロナウイルス感染症の現状と科学的な知見が示され、第2章と第3章で学校における感染対策の指針と具体例が示され、第4章で感染が広がった場合の対応が記されています。

※「生徒指導上の留意事項について」では、1.児童生徒の自殺予防について、2.児童生徒の不登校について、3.児童虐待について、4.児童生徒に対する差別や偏見について、の4つの項目から、学校再開後の子どもの心のケアに関する対応への留意事項が示されています。


6月1日

【学校の再開】


 5月25日までに全国の緊急事態宣言が解除されました。上記の【臨時休校の実施状況】(4月22日)に示されているように、全国の学校では地域の感染状況や子どもの状況に応じて地域や学校ごとの再開がなされます。文部科学省の「新型コロナウイルス感染症に関する学校の再開状況について」16によると、6月1日の集計で99%(全面再開(55%)、短縮授業(17%)、分散登校(27%))の学校が新学期を迎えていたことが示されています。


bottom of page