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  • 楠見友輔(立教大学文学部)

3.新型コロナウイルスと日本の学校(学校の閉鎖)

更新日:2020年12月5日

 本記事では、新型コロナウイルスの発生後の日本の学校の対応に関して、令和1年度末の状況を振り返ります。

 2019年の年末に中国武漢市で原因不明の肺炎が発生し、1月14日にWHOが新型コロナウイルスを確認しました。その後、中国の武漢市からの帰国者から国内初の感染が確認されました(1月16日に陽性を確認)。1月30日にはWHOが「国際的な緊急事態」を宣言しました。2月3日には、ダイヤモンドプリンセス号が横浜港に入港しましたが、船内でのクラスター発生が確認され、全国的に報道がなされました。2月13日には国内初の死亡者が確認され、2月27日には安部元首相が全国すべての学校の臨時休校要請を公表しました。

 これを受けて、文部科学省は学校保健安全法第20条に基づく臨時休業を行うことを各機関に求めました。ただし、幼稚園、保育所、学童保育は休業の対象から外れました。以下では、文部科学省が示したいくつかの通知等から、各時点での学校の対応を概観します。


2月28日

【新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業について(通知)】


 2月27日(木)の休業要請において、安部元首相は、「ここ1~2週間が極めて重要な時期だ」とし、3月2日(月)から春休みまでの臨時休業を要請しました。これを受けて文部科学省は、2月28日(金)に「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業について(通知)」を出しました。通知には以下の6項目(8下位項目)の留意事項が書かれています(下位項目は内容を筆者が概略しています)。



・保健管理に関すること

 1.児童生徒への臨時休業措置の説明と指導

 2.児童生徒への自宅における保健管理の指導

・教育課程に関すること

 3.家庭学習を適切に課す等の措置

 4.修了・卒業の認定は弾力的に対処・配慮

・公立学校における教員の加配や学習指導員等の配置に関すること

 5.教員と学習指導員の配置に必要な支援については必要に応じて相談

・公立学校の教職員の出勤等の服務に関すること

 6.基本的に勤務。出勤により感染症が蔓延する恐れがある場合には在宅勤務や職務専念の義務の免除等適切な取り扱い

・障害のある幼児児童生徒に関すること

 7.福祉部局や福祉事業所と連携をして居場所の確保。やむを得ない場合は対策を行った上で必要最小限を登校させる等の配慮。寄宿舎も基本的に休業とするが、状況に応じて柔軟に対応。

・高等学校等の入学者選抜に関すること

 8.感染防止の措置を講じた上で実施。追試験の実施等の対応。情報説明


 ところで、臨時休業は要請であり、文部科学省は臨時休校の措置については「設置者の判断を妨げるものではない」という考えを示しています。実際に、感染者がいない地域やクラスターが発生していない地域では、2月28日の時点では政府が示した2週間程度を基準にして、休校期間を数週間単位に設定していた自治体も多くありました。文部科学省の調査によると、3月16日までに臨時休業を実施しなかった学校が全国で約350校(1.0%)、3月16日までに再開した学校が全国で約1150校(3.5%)あったことが示されています。


【新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における臨時休業に伴う教育課程関係の参考情報について】


 臨時休業によって懸念された教育課程の未履修についての見解は2月28日の「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における臨時休業に伴う教育課程関係の参考情報について(2月28日時点)」で示されています。Q&A形式で以下の10の質問項目に答える形で、文部科学省は各学校が柔軟な対応を行うことを求めました。


Q1.臨時休業に伴い、今年度中に実施できる授業時数が標準授業時数を下回ってしまうことが見込まれるが、どうすればよいか。

Q2.実施した授業時数が標準授業時数を下回っていても、各学年の家庭の修了や卒業を認定してもよいのか。

Q3.卒業を迎える学年の児童生徒に、3月末までに指導すべき内容の指導を行うことができなかった場合においても、当該児童生徒の卒業を認定しても問題はないのか。

Q4.卒業を迎える学年の児童生徒に、3月末までに指導すべき内容の指導を行うことができなかった場合、どのような対応が考えられるか。

Q5.卒業を迎える学年以外の児童生徒に、3月末までに指導すべき内容の指導を行うことができなかった場合に、次学年の授業時数の中で、前学年の未指導分の授業を行うことは可能か。

Q6.臨時休業期間において、指導要録の「出欠の記録」にはどのように記載すればよいか。

Q7.臨時休業期間中に実施した家庭学習の内容を学年末の学習評価に反映してよいか。

Q8.通知表については、渡すのが4月以降になってもかまわないか。

Q9.卒業式を中止した場合に、教育課程上はどのように補えばよいか。

Q10.卒業式を中止した場合に、卒業証書の授与についてはどのようにすればよいか。


【臨時休業期間における各教科等の家庭学習の工夫及び教材例】


 文部科学省は、2月28日(金)に「臨時休業期間における各教科等の家庭学習の工夫及び教材例」を小学校、中学校、高等学校向けに作成していますが、ここでは臨時休業中に子どもに自習的な課題を出すこと(家庭学習)によって学習の遅れを防ぐという文部科学省の考えが示されています


3月2日

【新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業の要請に係る留意事項について(周知)】


 本資料においては、大学及び高等専門学校は臨時休業の要請の対象とはなっていないものの、社会や地域の状況を踏まえ、積極的な臨時休業を行うことも考えられること、大学等において感染者が生じた場合には、当面その趣旨を文部科学省に報告して欲しいということ、大学入試については受験機会を十分に確保する観点から、感染防止措置を講じた上で実施すること、などが示されています


3月13日

【学校の臨時休業の実施状況、取り組み事例等について】(3月19日に更新)


 3月19日(木)には、文部科学省は各地域や学校から集めた臨時休業中の教育の情報を発信するための資料として「学校の臨時休業の実施状況、取り組み事例等について」を出しました。

 資料には、オンラインによる朝礼やPTA会議の事例、エアロビクスや調理の動画を配信している事例、家庭学習支援の事例、子どもの居場所確保のための自治体の取り組み、ICTを利用して授業を継続している学校の事例、登校日や分散登校の取り組み、などの情報が示されています。また、休校中に活用できるデジタルコンテンツの紹介もされています。



【文部科学大臣メッセージ】


 3月13日(金)には、萩生田文部科学大臣から、卒業を控えた児童・生徒、教職員、保護者への「文部科学大臣からのメッセージ」が示されました


3月24日

【令和2年度における小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における教育活動の再開等について(通知)】


 3月24日(火)には、令和2年度からの学校再開に向けての留意事項と共に、ガイドラインとチェックリストが示されました

 地域ごとの蔓延状況を踏まえた対応を取ることを前提としたうえで、「密閉空間で換気が悪い」「手の届く距離に多くの人がいる」「近距離での会話・発声がある」という3つの条件が同時に重なる場を避けるための保健管理と良好な環境衛生の確保を取り組むことの重要性が確認されています。

 本通知では、「学校再開のためのガイドライン』と「臨時休業の実施に関するガイドライン』の2つが添付されています(なお、臨時休業ガイドラインは4月1日、7日、17日に改訂版が出されています10)。ここでは、学校再開の基準を示すことと、再開後に感染者等が発生した場合の臨時休業を行うことの基準、そして臨時休業中の学習指導の方針が同時に示されています。

 児童生徒または教職員に感染が判明した場合の臨時休業の判断としては、①当該感染者の症状の有無、②学校内における活動の態様、③接触者の多寡、④地域における感染拡大の状況、⑤感染経路の明否、等、これらを総合的に考慮し、都道府県等の衛生主管部局と十分に相談した上で以下の2つの判断をすることとされています。


A. 出席停止:感染した児童生徒と濃厚接触者の出席停止(学校保健安全法第19条)

B. 臨時休業:学校の全部または一部の臨時休業(学校保健安全法第20条)


 臨時休業の実施に関するガイドライン10(4月17日)では、以下の基準が示されています。



【文部科学大臣記者会見】


 3月24日(火)には萩生田文部科学大臣は、記者会見において新学期からの学校の再開の方針を発表しました。




 ただし、4月7日に政府からの緊急事態宣言が出されたことにより、多くの学校では新学期からの継続的な再開はなされませんでした。令和2年度の状況は次の記事で記します。


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